§賃金全額払いの判例(シンガー・ソーイング・メシーン事件)ストーリー

労基/安衛

労働基準法二十四条違反の賃金全額払いが争われた事例(上告棄却、労働者敗訴)


労働基準法24条の賃金全額払いの原則の趣旨は、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領され、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきである。
 本件のように、労働者が退職に際しみずから退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、右全額払いの原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。

シンガー・ソーイング・メシーン事件(最判第2小昭48.1.19)

裁判までの経緯

西日本総責任者Aさん
西日本総責任者Aさん

今月の出張旅費申請よろしくです。

SSM会社
SSM会社

これ仕事の旅費なのかなぁ?(怪しい。)
Aさんこういう説明のつかない旅費精算多いなぁ。
辻褄が合わないよなぁ。
こういうの結構積もり積もってるなぁ。

西日本総責任者Aさん
西日本総責任者Aさん

実は、競合他社に転職するんです。
退職届です。

Aさん退職時・・・。
SSM会社
SSM会社

Aさんの旅費精算、

ここ最近までの

説明聞いても、辻褄合わないんだけど、・・・
(業務に関係していたのかなぁ? プライベートじゃないの? 架空請求かなぁ?)
(競合へ転職するなんて、会社としても損害が出るなぁ)

旅費精算の件と競合へ転職の件は、
今更、問いたださないから、
会社の損害の一部を補填するために

この書面に署名くれますか?

「私、Aは、SSM会社に対し、
 いかなる性質の請求権をも 
有しないことを確認する。」

Aさん
Aさん

わかりました。
署名します。

SSM会社
SSM会社

退職金は払いません。

Aさん
Aさん

退職金の入金がない。退職金は無し?
聞いてないよ。
就業規則」通りなら400万円もらえるはずだろ!

SSM会社
SSM会社

書面に署名した請求権の放棄とは、
退職金以外考えられないでしょ。

最高裁
最高裁

Aさんは、退職しており、自由な意思に基づくものであると認めるに足る
合理的な理由が客観的に存在していたものということができる。
この意思表示は有効。

Aさん
Aさん

労働の対償としての賃金に該当するでしょ。
労基法24条「賃金全額払いの原則」に反する。

最高裁
最高裁

退職金は賃金です。だから、労基法24条の適用を受けます。
しかし、Aさんは、その請求権を放棄した。

Aさん
Aさん

仮に、放棄したとしても、24条の趣旨である相殺禁止の脱法行為だから、請求権の放棄は無効だ。

最高裁
最高裁

使用者の一方的相殺を禁止するものであり、労使双方の合意による相殺でも、労働者の意思が事実上抑圧された結果であるときは無効である。在職中の相殺はこれにあたる。
しかしAさんが従業員たる地位を失った後または離脱するに際してなされたものであるときは、労働者の抑圧された意思によるということは考えられないから、有効である。

感想

争点は、「労働者が、自由な意思に基づいて同意しているかどうか。」でした。

退職金の意味合い

退職金については、この事件の4年後に、
三晃社事件(最判第2小昭52.8.9)がおきて、
より詳しく定義されていきます。

退職金の意味合いは主に2つ考え方があります。

◆在職中の功労に報いるものとする(功労報償的な性格)

◆退職後の生活を保障するためのものとする(賃金の後払い※)

※「賃金の後払い」を2つ目と切り離して、単独で3つ目とする考え方もあるようです。


今回のシンガー・ソーイング・メシーン事件では、
競合に転職するので、
功労報償的な意味合いでは減額される可能性があった。
退職後、すぐに次の仕事があるので、
退職後の生活を保障するという意味合いでも減額される可能性があった。
と言えそうです。
ただし、本事件の昭和48年当時、退職金について、この概念が
世の中全般に浸透していたかどうかは定かではありません。

辻褄の合わない清算

えてして組織で上の立場の人が行いがちです。
一回精算されちゃうと、
もう1回と繰り返しちゃう。

裁量が大きいだけに金額も大きくなる。
気付いている者からは、
どうするのか観察されているのに
本人は(試されていることに)気づかない。

小学校での教え(禁じ手)

「誰も見ていないから、」
「これ1回だけだから、」
「これくらいいいだろう」
この3つの気持ちを、持ってしまったらいけません。
人間、楽な方に流されますよ。
弱いですから・・・。
と教わりました。

メシーン

”メシーン”って英語の発音を
日本人が耳で聞こえたままカナ文字に
変換した感じでしょうか?

つまり、小麦粉のことをメリケン粉(※)と
言っていたのと同じ感覚でしょうか?

アメリカ人の波止場は「メリケン波止場」ですね。
淡谷のり子さんの歌「別れのブルース」の歌詞に出て来ます。
「窓を開ければ、港が見える。メリケン波止場の・・」

淡谷のり子さんのものまねをするコロッケさん(イメージ)


「昭和のなつかしの歌」的なテレビ番組で
淡谷さんご本人が歌っておられたことを
おぼろげながら覚えています。

※メリケン・・・Americanのこと。
アメリカ製の、アメリカ人の、という意味。

退職金の金額(下世話な話)

当時の400万って今の金額にしたら、どのくらいなんでしょうか?
昭和48年の大卒初任給が62,300円~55,600円
(資料によりバラツキあり)とのことですから、
60,000円として400万は、だいたい初任給の67倍。
今の初任給を200,000円として、67倍すると13,200,000円!

参考文献

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