白石営林署事件ストーリー
12月9日
明日、明後日の2日間、年次有給休暇を取得します。
(申請したのでOKだな。)
(他の事業所のストライキの応援に行くのだ。)
う~ん・・・・・
(承認していないけどなぁ・・・)
12月10日・12月11日:(会社を休む)
他の事業場のストライキの応援
給料日
2日分は(欠勤扱いで)賃金カットしました。
え~っ。2日間は有給休暇じゃないのか?
有給休暇だから給料もらえるはずじゃん。
「未払い賃金」の請求の裁判起こしたる!
裁判
1.年次有給休暇における休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解すべきである。
2.労働基準法39条3項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かは、当該労働者の所属する事業場を基準として判断すべきである。
判例
労基法39条1,2項の要件が充足されたときは、当該労働者は法律上当然に所定日数の年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負うのであるが、この年次休暇権を具体的に行使するにあたっては、同法は、まず労働者において休暇の時季を「請求」すべく、これに対し使用者は、同条3項(現行5項)一定の事由が存する場合には、これを他の時季に変更させることができるものとしている。かくのごとく、労基法は同条三項において「請求」という語を用いているけれども、年次有給休暇の権利は、前述のように、同条1、2項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって始めて生ずるものではなく、また、同条3項にいう「請求」とは、休暇の時季にのみかかる文言であって、その趣旨は、休暇の時季の「指定」にほかならないものと解すべきである。
労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは、客観的に同条3項但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない。
年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である。
判例については、こちら(最高裁判所判例集)を参照しました。
難解用語の確認
新明解国語辞典 第7版 2012年 三省堂
・効果:目的通りのよい結果。
・解除:禁止や制限などの処置や契約関係を取りやめて、自由な行動を許すこと。
・条件:ある物事が成立するために不可欠な事柄。
・発生:ある状態が生じること。
デジタル大辞泉 小学館
解除条件:すでに生じている法律行為の効力を消滅させる条件。
「落第すれば給費をやめる」の場合の「落第すれば」など。
前提知識
有給の要件
(年次有給休暇)
労基法39条1項
労基法39条
1 使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
- 有給付与には、継続勤務年数(6箇月以上)と出勤率(8割以上)が必要です。
時季指定権と時季変更権
- 労働者は「時季指定権」を持っています。
- 使用者は「時季変更権」を持っています。
誤解しやすい認識(債権・債務の関係ではない)
年次有給休暇の権利は「債権」「債務」の関係である。←誤り。✕。
もし、使用者の時季変更権の行使を停止条件とした場合、使用者の時季変更権の行使(=承認)が取れるまで、有給休暇が取得できなくなってしまいます。
デジタル大辞泉 小学館
停止条件:一定の事項が成就するまで法律行為の効力の発生を停止する条件。
労基法上の認識
時季変更権の行使が解除条件であれば、労働者の時季指定の時点で有給休暇は成立していて、その時、使用者の時季変更権の行使がなければ、そのまま有給休暇が成立していることとなります。
判例を意訳(解除条件のところ)
すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、
・・・
【意訳】休暇の時季指定の効果(目的通りの良い結果)は、
使用者の時季変更権が行使されれば、時季指定は解除(効力を消滅させる)のであって、・・・
年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない。
【意訳】年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を入り込ませるゆとりはない。(「休暇の請求」「承認」の観念を入れることはできない。)
過去問
平成26年度 労働基準法 問6ーB
最高裁判所の判例は、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨である」と述べている。
答え:○ 正しい
年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨と解するのが相当である。(判例より引用)
感想
裁判の争点は、有給休暇として成立するかどうかというところでした。(判例:成立する。)
有給休暇申請を、放置(無視)する上司がいたとしても、それは時季変更権を行使していないことになりますので、有給休暇は成立することになります。
判例は「先例として一般性をもつ裁判」ですが、だからといって実務上、判例通りに、時季指定権を行使したら、会社によっては「角が立つ」と思います。
「山路を登りながら、こう考えた。…とかくに人の世は住みにくい。」(夏目漱石「草枕」より)
まずは会社ごとの、就業規則に則って有給休暇申請しましょう。
年次有給休暇制度の運用については、こちら(独立行政法人労働政策研究・研修機構)を参照してください。
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