賃金の定義は、主に労働基準法、雇用保険法、徴収法に出てきます。
労基法と徴収法で条文を比較してみました。
条文比較(労基法11条と徴収法2条)
労基法11条と徴収法2条に「賃金とは」という言葉が出てきます
これを表形式で比較してみました。
表現が微妙に違うのはなぜ
労基法では
「すべて」
徴収法では
「通貨以外のもので支払われるもので
厚生労働省令で定める範囲外のものを除く」
徴収法は訳の分からないことを言い出したような・・。
「範囲外のものを除く」
↓
(逆にしてみると)
↓
「範囲内のものを含む」
徴収法では「現物給付は
厚生労働省令で定める
(範囲内の)ものを含める」
と言いたい訳だね。
過去問チャレンジ
平成17年 徴収法(労災) 問9 ーA
労働保険料の算定に関して、一般保険料の算定の基礎となる賃金総額とは、事業主がその事業に使用するすべての労働者に支払う賃金の総額をいうが、通貨以外のもので支われる賃金であって厚生労働省令で定めるもの及び臨時に支払われる賃金は除外される。
答え:✕ 誤り
「除外される」ではなく、「除外されない」です。なお、前段は正しいです。
通貨以外(現物支給)が賃金の場合
ねえ。徴収法さん
具体的に賃金になる現物給与(=通貨以外)は何なの?
チョウシュウ
ゴニョゴニョ・・・。
通貨以外(現物支給)が賃金の場合の例外
賃金とならない現物は?
ゴニョゴニョ・・・。
ちょっと待って。
食費、制服、住居って賃金に算入っていってたじゃん。
ロウキ
バケバケ・・・
食費の現物支給(=給食)は 賃金の減額を伴わず、 労働条件となっていないで、 かつ僅少、 であれば 労基法でも賃金に含まれません。
労基法も「すべて」とか言っている割には例外があるのかよ。
お前らテキトーだなぁ。
「ふんわり、ふわふわ 範囲が甘すぎ」だろ。
綿菓子か。
どっちも似たような感じじゃねぇか。
このやりとりでは
条文の微妙な表現の違いの
説明とはならないですね。
困ったなぁ
労基法の賃金(労基法11条)は賃金5原則にのっとって
労働者に支払われるものという性格がある。
だから労働者側が不利とならない配慮が入っている
その思いが「すべて」という表現になっている。
一方の
徴収法の賃金(徴収法2条)は労働保険料を決めるという性格がある。
だから事業者が(嫌がらずに)支払ってくれるような配慮が入っている。
その点に微妙な違いがあるのじゃなかろうか。
平均賃金(労基法12条)と徴収法の賃金(徴収法2条)比較
労基法の賃金は平均賃金などの算出の元となりますが、
平均賃金の算出には現物給与(=通貨以外)は除かれます。
労基法の平均賃金の条文では
「通貨以外のもので支払われた賃金で
一定の範囲に属しないものは算入しない」
とあります。
参考: 平均賃金 労基法12条 抜粋 (ページの下の方にあります。)
実際に支払う場合の計算根拠となる数値である
平均賃金や労働保険料算出の賃金において
通貨以外の取り扱いは
労基法も徴収法も一緒ですね。
賃金の定義での具体的違い
労基法では、 退職金、結婚祝い金、死亡弔意金、災害見舞金 は ・労働協約等で定めがあれば賃金となる。 ・労働協約等で定めがなければ賃金とならない。
徴収法では、 退職金、結婚祝い金、死亡弔意金、災害見舞金 は (労働協約等で定めがあろうと、無かろうとに関係なく) 賃金ではない。
感想
徴収法の賃金は保険料の算出に用いるから、事業者にとって少ない方が良いわけです。
徴収法の場合、主に保険料を負担する事業者は保険料が高くなるのがイヤなので、
退職金、結婚祝い金、死亡弔意金、災害見舞金を無くしてしまい、
払わなくなる可能性があるわけです。
徴収法により労働者のもらえるお金が少なくなる方向に誘導することになってしまったとしたら
政府は困るので最初から計算の元となる賃金からは外してしまい
退職金などが無くなる懸念を回避しようとする狙いがあるように捉えられなくもないです。
あくまでも個人の推測です。
う~ん。
徴収法の
食費、制服、住居は
結局、どっちなんだい。
署長と所長が範囲を定める・・・。
あっそう。
都道府県ごとに違うってことだねっ。
それでいいね。
・・・
いいよね。
・・・・。
必要な評価は厚生労働大臣が定める・・・。
労働保険料の算定基礎となる賃金例 ・神奈川労働局 ・徳島労働局 ・石川労働局
煮え切らない感じから、整理していてハライチの漫才を思い出しました。
徴収法において
被服の利益に関しては賃金か賃金じゃないのか判断しかねますが、
食費と同様(※)に考えておけば、おそらく大丈夫でしょう。
※賃金の減額を伴わず、 労働条件となっていないで、 かつ僅少、ならば 賃金としない。(福利厚生となります。)
相変わらず、例外ばっかりの法律のお話でした。
ありがとうございました。
通貨以外のものの扱い
徴収法 法2条
2 この法律において「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うもの(通貨以外のもので支払われるものであつて、厚生労働省令で定める範囲外のものを除く。)をいう。
3 賃金のうち通貨以外のもので支払われるものの評価に関し必要な事項は、厚生労働大臣が定める。(通貨以外のもので支払われる賃金の範囲及び評価)
徴収法
則3条
法第2条第2項の賃金に算入すべき通貨以外のもので支払われる賃金の範囲は、食事、被服及び住居の利益のほか、所轄労働基準監督署長又は所轄公共職業安定所長の定めるところによる。
健康保険法(現物給与の価額)
健康保険法
法46条
1 報酬又は賞与の全部又は一部が、通貨以外のもので支払われる場合においては、その価額は、その地方の時価によって、厚生労働大臣が定める。
2 健康保険組合は、前項の規定にかかわらず、規約で別段の定めをすることができる。
厚生年金保険法(現物給与の価額)
厚生年金保険法
法25条
報酬又は賞与の全部又は一部が、通貨以外のもので支払われる場合においては、その価額は、その地方の時価によつて、厚生労働大臣が定める。
現物給与の価額は
徴収法(雇用・労災)
だけでなく
健康保険や厚生年金保険でも
出てくるのか・・・。
参考:平均賃金 労基法12条 抜粋
労基法12条 1項
法12条
1 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の1によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
労基法12条4項
4 第1項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
労基法12条5項
5 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第1項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
今度こそ、以上です。
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